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浦和地方裁判所 平成2年(わ)483号 判決 1991年1月25日

本店所在地

埼玉県大宮市高鼻町一丁目四九番地

明和地所建設株式会社

右代表者代表取締役

石関美智子

本籍

埼玉県大宮市三橋六丁目一五九三番地の六

住居

同県与野市大戸六丁目一二番四号 平山智恵子方

会社経営

石関建治

昭和一八年六月二日生

本籍

埼玉県浦和市本太五丁目四〇番地

住居

同市大字大谷口一六二九番地 浅野裕美子方

会社役員

恒川清

昭和八年三月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官廣瀬公治出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社明和地所建設株式会社を罰金一億七千万円に、被告人石関建治及び被告人恒川清をそれぞれ懲役二年に各処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社明和地所建設株式会社は、土地建物の売買等を目的とする資本金四千万円の株式会社であり、被告人石関は、被告会社の設立時から昭和六二年九月三〇日までの間その代表取締役として、同日以降は右地位を妻の石関美智子に譲ったものの、実質上の経営者として同会社の業務全般を統括しているもの、被告人恒川清は、昭和五五年ころから茅部商事株式会社(代表取締役柴田喜一)の従業員として、昭和六一年一一月一日からは自ら設立した株式会社茅部商事の代表取締役として不動産取引に携つてきたものであるが、被告人両名は仕事上のみならず趣味の競馬を通じて親しい交際を続けてきたものである。

昭和六一年に入り、被告会社が地上げした大宮市土手町の土地約一、六九二平方メートル(約五一二坪)が銀二土地株式会社に、次いで同市宮町の土地約七六九平方メートル(約二三二坪)が日特不動産株式会社にいずれも高値で売却できるようになつたことから、被告人石関及び同恒川は、共謀のうえ、右銀二土地との取引に前記茅部商事株式会社を、右日特不動産との取引に前記株式会社茅部商事をそれぞれダミー会社として介在させて被告会社の所得を秘匿し、右両土地の売却利益にかかる被告会社の法人税をできる限り免れようと企て、右土手町の土地については、同年一〇月被告会社から茅部商事株式会社へ代金二三億円で、次いで同社から銀二土地へ代金三三億二千万円で売却したように仮装し、右宮町の土地については、同年一二月に被告会社から株式会社茅部商事に代金九億四七八万円で、次いで同社から日特不動産に代金一三億九、五六一万円で売却したかのように仮装するなどしたうえで、同年六月一日から同六二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一四億九、〇七四万七、七〇〇円で課税土地譲渡利益金額が二一億八、八九八万三、〇〇〇円あつたにもかかわらず、同年七月三〇日、同市土手町三丁目一八四番地所在の所轄大宮税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九、七七六万六、六七〇円で土地譲渡利益金額が八億一、一三二万円であり、これに対する法人税額が一億九、二四八万七、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額一〇億五、三〇七万一七〇〇円との差額八億六、〇五八万四、六〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人両名の当公判定における供述

一  被告人石関の検察官に対する平成二年六月二七日付、同年七月七日付、同月一〇日付、同月一一日付、同月一二日付、同月一三日付、同月一四日付、同月一六日付各供述調書

一  被告人恒川の検察官に対する同年六月二一日付、同年七月六日付、同月一〇日付、同月一〇日及び一一日付、同月一二日付、同月一三日付、同月一四日付、同月一六日付各供述調書

一  木部賢一(平成二年七月一一日及び一二日付、同月一四日付、同月一七日付)、安田正美、塚原良雄、宮崎喜一郎、丸岡保男、小山清吉、高田茂、池畑誠、松井鐵夫、武藤信一、中山博、加藤尹彦、柴田喜一、今井英四郎及び似内建一の検察官に対する各供述調書

一  石関美智子、大塚文雄、田澁莞爾、板東正夫及び橋本和司の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大宮税務署長作成の回答書(確定申告書等写し添付)

一  検察官作成の報告書(修正損益計算書等添付)及び電話録取書

一  大蔵事務官作成の「売上高調査書」「租税公課調査書」「支払手数料調査書」「雑費調査書」「株式売買調査書」「割引債券調査書」及び「株式調査書」と題する各書面

一  浦和税務署長作成の回答書

一  登記官作成の商業登記簿二通

(確定裁判)

被告人石関は、昭和六二年一二月一日東京地方裁判所で売春防止法違反により懲役一年執行猶予三年に処せられ、右裁判は同月一六日確定したものであつて、この事実は、検察事務官作成の前科調書及び右裁判の判決書謄本によりこれを認める。

(法令の適用)

判示所為は、被告会社につき法人税法一五九条一項、一六四条一項に、被告人石関及び同恒川につき同法一五九条、刑法六〇条にそれぞれ該当するところ、被告会社については情状により法人税法一五九条二項を適用し、その所定金額の範囲内で被告会社を罰金一億七千万円に処することとし、被告人石関及び同恒川については、所定刑中懲役刑を選択するが、被告人石関の本件犯行は、前記確定裁判のあつた売春防止法違反と刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示法人税法違反の罪について更に処断することとし、被告人両名につきその所定刑期の範囲内で、いずれも懲役二年に処することとする。

(主たる量刑の理由)

本件犯行は、地価高騰に便乗した土地売却に際し、取引相手との間にダミー会社を介在させて被告会社の利益を圧縮するとともに、ダミー会社の支払うべき法人税を納付しないか、或いは納付するにしても架空経費等を計上するなどして極く僅かなものにし、結局、総体として被告会社の負担する法人税をできる限り免れようとしたものである。その方法が卑劣なものであることはいうまでもないが、とりわけその脱税額は、単年度とはいえ、約八億六千万円の巨額に上り、ほ脱率は約八二パーセントに達する悪質なものである。しかも、その犯行目的を見ると、被告人石関に関して言えば、不況時に備えた裏金作りといつた面も窺えなくもないが、被告会社の実体が被告人石関の個人会社であるところからすれば、結局同被告人の利益確保の面が強く、現に、同被告人は、その得た利益中約九千万円もの大金を個人的な趣味である競馬や飲食遊興費等に充てているのである。さらに、前件の犯行内容から明らかなとおり、同時期に、いわゆる管理売春に用いられることを承知のうえで一億円を高利で貸付けていることなども併せ考えれば、被告人石関の利益追及の為には手段を選ばないといつた態度も窺われるところである。一方、被告人恒川は、犯行後被告人石関から受け取つた七億円余を、ダミー会社の納税資金としては一銭も用いることなく、競馬やその為の借金の返済、ダミー会社経営者への報酬支払い、自ら設立した会社の経費等に充てているのである。結局、被告人両名とも、私利私欲に走つたものとして同情の余地は極めて乏しく、その行為は厳しく批難されるべきである。そのうえ、被告人両名は、本件犯行発覚後も、直ちに税を支払うどころか、人を介して国税当局に圧力をかけようとしたり、相互に連絡をとりあつて犯行を否認し、逮捕後暫くしてようやくこれを認めるに至るなど、犯行後の情状も芳しくない。

このような被告人両名の本件脱税行為は、我が国税制の根幹をなす申告納税制度の期待している誠実かつ良心的な納税者の義務に反すること甚だしく、また、事後に脱税額の大半を支払つたからといつて、その犯行の結果を軽視することは、大多数の善意の納税者の納税意欲を著しく削ぐことにもなるのであつて、社会に及ぼす影響も十分考えなければならない。その他、同種犯行に対する科刑の状況も勘案すれば、本件犯行については、被告人両名に対し、実刑をもつてその責任を果たさせるのが相当である。

ただし、被告人石関は、本件犯行のきつかけを作り、その実行行為の大半を受け持つ一方、現在では反省を深め、本件脱税額のみならず重加算税等も相当程度支払つていること、他方、被告人恒川は、実行行為にはさほど関与しなかったものの、その利益の半分以上を手に入れてこれを前記のとおり競馬等に費消してしまい、本件脱税額等の支払いには何ら寄与するところがないこと、その他、被告人両名の前科、業務の実情、地域社会への貢献、家庭の事情等を含めて比較考量すると、両被告人の刑事責任はほぼ同一と見るのが適当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 須藤繁)

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